file02:こどものための古文コミュニケーション

新井:最近よく「サイエンス・コミュニケーション」ということが言われます。でも、一般の方へ向けて、研究のおもしろさを話すことが苦手な研究者が多いですよね。researchmapなどを通じて、もっと発信してくださるといいんですけれども。国文学/日本文学を一般の方々に紹介する場合には、どんな課題があるのでしょうか?

田中:古典に『とはずがたり』という物語があるんですが、これをたとえば「好色一代女の中世版みたいな作品」というふうに一人が言ってしまうと、その人のバイアスがかかってしまいます。だからいろんな人がもっといろんな目で紹介する機会がなければいけません。ところが一般の方々に向けて紹介するような書き物は学問的でないかのように言われてきたこともあって、国文学者はこれまでほとんど、そういったものを書いて来なかったんです。今まさにそのようなものが求められる時になってみると、どういうふうにやったらいいのか、やって来ていないからわからない。この問題は、われわれ学者がもっと考えなければいけない時期に来ていると思います。

たとえば「登場人物たちはなんで歌を詠むんですか?」といったごく素朴な質問も受けられるような─「こども古文教室」のような機会が作れるようになればいいですね。

※写真は、冨倉徳次郎訳のとはずがたり。古典文学の現代語訳もマンガ化作品も、訳者や作者(漫画家)の解釈が入っている。

TEXT : Takako Tanaka, Noriko Arai, Rue Ikeya  DATE : 2010/07/21