file02:サーベイのイノベーション

私が政策研に来た90年代というのは、科学技術政策ががらりと変わった時代なんですね。冷戦の終結によって、アメリカもヨーロッパもかつてほど国防にリソースを回さなくて済むようになり、その余力をどこへ回すかというので、世界中が科学技術予測をはじめとするサーベイ(調査)を行うようになりました。またインターネットの発達によって、企業活動が本格的にグローバル化していった時期でもあり、国内の経済力をどう高めるかが大きなアジェンダになっていたという背景もあるでしょう。ヨーロッパは特に失業問題を抱えており、新しい経済メカニズムを構築して労働マーケットをどう増やすかというのが大きなアジェンダとなっていました。

日本は1970年代から国家レベルの技術予測サーベイを約5年ごとに行っていましたので、実は比較的長い歴史を持っているんです。基本となっていた手法は、デルファイ法です。これは50年代にアメリカのシンクタンク「ランド・コーポレーション」が開発した意見を集約する技法で、たとえば、10年、20年後の技術を考える場合には現在のデータの積み上げだけではわかりませんから、専門家のすぐれた直観や経験に頼ろうというわけです。専門家に質問票調査を反復することで、フィードバックを繰り返しながら集団としてのコンセンサスを見出して、認識のベースを作っていく。90年代にはドイツと共同研究を行い、日独の専門家の将来像にどんな差があるのかを分析しました。

インターネットの普及に伴い調査のしかたも変わってきて、よく覚えているのが、2001年にウェブを使って、2,000人ぐらいの専門家にアンケートに答えていただくようなシステムを作りました。それまでこのような人数の専門家の意見を集めようとすると、3〜4ヵ月以上かかって、もちろんお金も相当必要だったのが、低予算で、たった2週間でできてしまった。当時としては実に画期的だったんです。

researchmapのようにITベースのものは特に、単なるファクトではなく、参加者の意見交換の中から何らかの認識が生まれてくるといいですね。研究者の方が、進むべき新しい分野や研究テーマを選ぶ意志決定をする際に、その認識のベースになるような“プラットフォーム作り”はとても重要だと考えています。

TEXT : Terutaka Kuwahara, Rue Ikeya  DATE : 2010/06/22