file 03:あなたに合った薬

パーソナリゼイション技術は、医療の分野でも、もっと活用できるのではないか、と私は考えているんです。医療分野のシミュレーションといえば、みなさんも細胞の内部の様子とか、よりマクロに心臓のしくみ図などを、目にしたことがあるかもしれません。私たちは同じ生物、同じ人間だから基本的なしくみは一緒ですね。そういうところはシミュレーションでモデル化するのに向いています。

ところが医療機関にかかって、薬を処方してもらう。すると、この抗生剤は自分に合うけど、この薬はあまり効かないとかいったことを、われわれは日常的に経験しています。つまり細胞のひとつひとつのしくみにはバリエーションがあって、実はみんな同じではないわけですね。では「あなたに合った薬」あるいは治療法というのは何なのか? この問いに、従来のシミュレーションは答えることができません。

そこで私は、パーソナリゼイション技術を使って基本的なところはシミュレーションで厳密に設計しておき、データに基づく小さいルールを「合わせて」いけば、個人に合った医療サービスが提供できるのではないか、と提案しています。現在はまだ医療において標準的な考え方ではありませんが、近い将来、このような時代が来るのではないかと考えています。

なお、シンポジウム「情報とシステム2010」のプログラムでは、医学部を経て現在はバイオモデリング分野に取り組む、理化学研究所の上田泰己氏による「生命の時間について」と題する講演も予定しています。ぜひご来場ください。

■シンポジウム「情報とシステム2010」
参加申込み: http://roissympo.hibase.com/user.php

また、統計学を学ばれる方にぜひおすすめしたいのが、2009年に亡くなられた元統計数理研究所所長 赤池弘次先生が編纂された一冊、

赤池弘次・北川源四郎 編
朝倉書店   1995年9月   ISBN-13: 978-4254125849

です。特に最終章の「時系列解析の心構え」は、一字一句ゆるがせにしない赤池先生らしい、研ぎ澄まされた言葉に満ちています。

TEXT : Tomoyuki Higuchi, Rue Ikeya  DATE : 2010/09/03