file01:情報爆発と学問のスタンダード

『エリアーデ世界宗教事典』をはじめとするエリアーデ(Mircea Eliade, 1907-1986)の仕事は、横断的に宗教というものを見ていこうというものであり、それが最後の百科全書家と言われるゆえんです。彼は、1986年に亡くなって以降、第二次世界大戦前のルーマニアでのユダヤ人排斥への関与などからかなり批判されてもいるのですが、そのような時代的な制約はあるにせよ、宗教とは何かを考えるイントロダクションとして、今でも意味を持つと思います。

しかしその彼でさえ、オーストラリア先住民の宗教についての本を著した際、アフリカについてはもう情報が多すぎて自分には書けない、と告白している。僕の実感としても、1990年代、2000年代と進むに従って、まさにインターネット時代というか、出版点数にしても、1人の人間が自分の分野だけでもそのすべてを追うことが出来ない状況を感じます。限られた時間の中で、自分の研究する範囲と枠組みをどう決めたらいいのか、研究の方法をこれから習得しようという若手には、たいへん困難な状況だと思いますね。

そんな中で、学問を始めるのに基本となる辞書、それから入門書のようなものは、学問のスタンダードをつくっていく上で、とても大切なものです。学問はある種共同の営みですから、日本の宗教学者のここ15年ぐらいのチームワークというか、交流と議論の成果として、学問の動向がわかる事典や講座本が揃ってきています。

鶴岡 賀雄 (著), 池上 良正 (編集), 島薗 進 (編集), 関 一敏 (編集), 小田 淑子 (編集), 末木 文美士 (編集)
岩波書店   2003年12月   ISBN-13: 978-4000112314
島薗 進 (編集), 深澤 英隆 (編集), 石井 研士 (編集), 下田 正弘 (編集)
弘文堂   2007年12月   ISBN-13: 978-4335160486
星野 英紀 (編集), 池上 良正 (編集), 氣多 雅子 (編集), 島薗 進 (編集), 鶴岡 賀雄 (編集)
丸善   2010年10月   ISBN-13: 978-4621082553

情報爆発の問題があり、また方法論としても宗教を横断的に見るということが今はなかなか難しいけれども、「宗教」概念の批判や方法論的な批判を超えて、いま宗教に関して何を考えるべきかを、もういちど問い直すべきではないかと思っています。

TEXT : Michiaki Okuyama, Rue Ikeya  DATE : 2010/10/29