file 01:最先端をまずは読み込む

「MovingSketch」のポイントは、物理シミュレーションという考え方をそもそも捨てて、かたちの歪みを最小化するような最適化計算をするという発想の転換にあります。今までの物理シミュレーションでも似たようなことができるのですが、材質を固定したり、いろんな条件を決めなければならない。また現実世界では、たとえば「10cm耳を引っ張られる」ということは絶対にあり得ないので、そういったケースで、すぐに計算速度が落ちてしまうんですね。

こういったアイデアの源は、ひとつにはコンピュータ・グラフィックスの国際学会やその論文集などを読み込むことですね。最先端の研究の成果として生まれつつある新しい考え方を、みんなにとってわかりやすい問題に落とし込む。オリジナルな部分もあるけれども、ある意味では他の人の研究の上にたっている─そこが重要なところだと考えています。

またこのような学会の論文集を読むと、今年何が起きて、どんなものが出てきたかがわかりますから、学生にもひたすら読ませます。最近の傾向としては、コンピュータの中だけでなく、実世界に出て行こうというのもひとつの傾向ですね。もうひとつは「データドリブン」で、ゼロからモデルを作るのではなく、キャプチャで取り込んだデータや、インターネット上にある大量のデータを活かしていこうという研究が増えています。たとえば新しい人間の動きを作るために、膨大な量のモーション・キャプチャ・データをうまく合成しようとか、大量の形状データを使って新しい形状をデザインしてしまおうといった潮流を感じます。