file 03:「ウイルスを擬人化するな」

よく風邪をひいて診療所を受診すると、抗生剤が処方されますが、これは細菌を殺す薬ですね。細菌は生物なので殺すことができますが、インフルエンザはウイルスなので、生体に入ってしまうと殺すことができません。生体内に入ると、感染した細胞をハイジャックして、一時的にその一部になってしまいます。

インフルエンザは、ウイルスの中でも比較的単純な構造を持つタイプです。遺伝子コーディングをみるとインフルエンザだとわかるけれども、環境に合わせてちょっとずつ自分を変えながら、人や動物などの生体をわたって生きている。インフルエンザウイルスは、あの構造の単純さで、自分たちの遺伝子を残す戦略がある。ものすごく効率がいいなあ、不思議だなあと思う一方、本質的には、核酸タンパク質と膜から成っていて、自己複製のシステムを持っているけれども、自己のみでは子孫を残すことができないために、「生物と無生物のあいだ」といわれたりして、単なる「物質」的な側面もあります。たとえば机の上などにくっついている場合には全く子孫を残せませんし、アルコールで拭くとか、石鹸水で洗うといった処理で、比較的簡単に破壊することができるのですね。これが理由かどうかはわかりませんが、生物学者によっては「ウイルスを擬人化するな」(笑)と言ったりします。