file 02:体験としてくぐって記憶する

これまでに解雇離職した人たちやホームレスの人たちと、たくさん話してきました。そういったことが背景にあって、やはりまずは相手の目線、相手のリアリティに合わせて話さなければ、メッセージは届かないと思いますね。

たとえば「世の中みんな多様なんだよ」と言っても、相手に多様性を理解してもらうことは相当難しいわけです。そこで授業でまず私が何か話す。そして話されたことについて隣の人と話し合ってもらって、どう思った、こう考えたといったことを出してもらう。すると、自分はそう思わなかったという話がいっぱい出て来るでしょう。そこで初めて、ああ、人によってこんなにも受け止め方が違うんだとわかる。そういうことを体験としてくぐってもらうなかで多様性を実感してもらうしかないと考えています。これは実際、私が教壇から「世の中多様なんだ」と10回言うよりも、はるかに一人一人の中に残るやり方じゃないかと思っています。

また授業では、学生同士ペアを組んでもらい、話し方・聞き方を体験するようなセッションも設けています。1人が3分間、同じことを2回話すのですが、聞く方に、聞き方を変えてもらうんです。1回目はときどき頷きながらちゃんと聞く、2回目はあからさまに関心なさそうに聞く。すると話し手のほうで、話しやすさがまったく違うんですね。このことを通じて、聞き方が大事だということを学んでもらう。そのようにしてくぐってもらうことが大切であると思っています。