file 01:シオニズムと世代

歴史的に見て伝統的なユダヤ人は非ユダヤ人との関係において波風を立てないことを重視し、暴力の被害に遭っても、基本的には暴力で抵抗することをかなり嫌ってきたと言えるでしょう。しかし19世紀終わりから20世紀初頭にかけてのポグロムというユダヤ人迫害事件や第一次世界大戦を通じて大きな暴力にさらされたユダヤ人たちの一部、特に若い世代は、生存に対するものの考え方を変えていきました。それまでは、シオニズムであっても、自分から行動を起こしていこうというタイプの運動ではあるものの、暴力的な手段はあまり考えていなかったのが、特に第一次世界大戦を通して、ユダヤ人も武装しようという議論が少しずつ出てきて、パレスチナでアラブ人との暴力的対立が起こるようになります。しかも、世代を重ねるごとにこの考え方は強くなっていきました。

またシオニズムそのものに、世代論的な側面があります。初期の活動家の親の世代は、伝統的なユダヤ教徒が多かったんですね。これへの反発でシオニズムに傾倒する、あるいは社会主義者になるといったパターンが結構あります。シオニズムが成立してからも世代間の反発や断絶があって、やはり前の世代は議論ばかりしていて行動しないとか、手ぬるいといった言説が1920年代、30年代と続いていきました。必ずしも単純な右肩上がりではありませんが、ホロコーストを通じてユダヤ人武装化の流れが決定的に加速するというのは容易に想像できます。

このように、20世紀のロシアに暮らしていたユダヤ人を大きな母体のひとつとして発達したシオニズムは、「ユダヤ人とはこういうもの」といった民族史観ではまったく説明がつきません。その時彼らがどういう経験をし、彼ら自身がそれをどのような意味として捉え、たとえば他の民族との接し方をどのように変えていったのか……まさに社会学的な視点によって理解するしかないこのような問題を、これからじっくり明らかにしていこうと考えています。