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おとなりの研究者
国立情報学研究所
コンテンツ科学研究系
教授

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教授

中部大学
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教授

慶應義塾大学
理工学部情報工学科
教授

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研究の壁を越えたとき I

コンピュータの眼がつなぐもの

東京大学生産技術研究所
佐藤洋一教授

人の視線について考える学問といえば、心理学? それとも認知科学─人の視覚のメカニズムを実現しようという東京大学の佐藤洋一教授が取り組むのは、「コンピュータビジョン」と呼ばれる研究分野だ。そもそもは1960年代に「ロボットの眼」を作ろうと始まった研究というが、分野は広く、最近デジカメで話題の「顔認識」もこの応用技術である。東京・駒場の生産技術研究所に、佐藤教授を訪ねた。

眼は世界へ開かれた窓。では、コンピュータの眼は?

コンピュータビジョンというのは、ひとことで言うと、人間が視覚を使って外界を認識しているメカニズムを、いかに工学的に実現するか─というゴールへ向けた研究なんですね。これを使って、実際にいま世の中にあるさまざまな問題を解くことができると、非常に幅広く応用できるものと考えられます。

そもそも「ロボットの眼」というくらいですから、コンピュータビジョンは、人と機械のインターフェースとして大きな可能性を持っている。つまりロボットが、自分のまわりにある環境を人間と同じように認識したり、人が見たものを人と同じように理解したりできるようになる可能性が広がるわけです。それから最近ウェブの発達で、ネットの世界がどんどん肥大していますが、このような中で、オンラインと実社会をいかにつなぐかという意味でもコンピュータビジョンの果たす役割は大きいですね。

この人は今、どこに注意を向けているんだろう?

今、僕が一番興味を持っているのは人の行動、中でも「視線」なんです。人と話をしていて、この人はいったい今、どこに注意を向けているんだろう……って思うことはありませんか? あるいは駅や空港などで、多くの人がいっぺんにある方向を見たら、その先に何らかの異常があることはまず間違いないですよね。このように人々が何を見て、どこにアテンションが集まっているのかを画像解析によって引きだすことができれば、テロリストを発見したり、流行やトレンドを捉えたりと、さまざまな役立つアプリケーションに展開できるはずなんです。

ではどう解明するのかというと、第一ステップが「視線の推定」です。視線は眼球の向きという物理量で測ることができます。そのために「視線検出装置」といういい装置があるのですが、ただこれを世の中のみんなに装着してもらうとなると……ちょっと考えただけでもあり得ませんね(笑)。だから、僕は街のカメラで得られる情報でなんとかしたいと思っています。できればカメラを部屋の中に2つぐらい取り付けておいて、中にいる人や歩いている人の視線を制限なしに取れるようにしたい。これを「ユニバーサルな視線センシング」と呼んでいます。さらに周辺の画像も一緒に解析して、人の視線の先に実際に何があるのかを推定しようというわけです。

しかし人って、視線を向けてはいても、ただぼおっと見ているだけかもしれないですよね。そこで第二のステップが「注視」です。この段階では、外界から直接観察できる視線と違って、人の内面という要素が入ってきます。そして最終ステップの「注意」までくると、もう完全に外から見ただけではわかりません。そこで5年間の研究プロジェクトとして、まず注視までを目指しているのですが、この一方で、最近、認知科学者とのコラボレーションも始めています。テーマは近いようで、知見も、問題に対するアプローチもまったく違いますから、お互いにすごく刺激になるんです。

どこからブレークスルーするアイデアが生まれるか?

研究者としては、他の人にさきがけた成果を出して、それによって領域を開拓するような体験こそ、満足感は大きいものです。僕の場合は、アメリカに留学していた時に博士過程でやっていた研究が、そのあと結構発展したんですね。研究者としては、この規模のものをあと2回は出さなければいけない(笑)。じゃあ、どこからブレークスルーするアイデアが生まれるかというと、まず何もないところからアイデアは生まれないですよね。直接関係するとは思えないような論文でも何でも、とにかくどん欲に頭の中へ入れていくと、たぶんあるタイミングで、これとあれ、あれとそれが、つながる。するとちょうどその時注目されているある問題がとける─アイデアが出る時って、そんなパズルの組み合わせみたいのが起きているのではないかと思うんです。

しかもウェブの時代になって、そのサイクルがものすごく速くなっていますよね。できそうだと思ったときは、たいてい誰かも同じタイミングで、まったく同じようなことを考えている!論文が出てから勉強していたりすると、もう全然遅いです。学校にいる時だけ考えていたら、たぶん他の誰かが先にやりますよね。でもね、面白いと思ってやっていれば、人は四六時中考える。研究には、まずそのくらい夢中になれるテーマを見つけるのが、大事なんだと考えています。

文:佐藤洋一・池谷瑠絵 写真:水谷充 取材日:2010/05/31