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おとなりの研究者
旧所属 千葉大学 大学院 医学研究院 免疫発生学
教授

北海道大学
遺伝子病制御研究所 疾患制御研究部門

千葉大学
大学院医学研究院 発生・再建医学研究部門 免疫アレルギー講座免疫発生学
千葉大学

北海道大学
遺伝子病制御研究所 疾患制御研究部門
助教授・准教授

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未来を探るひきだⅩ

免疫システムの記憶と謎。

千葉大学
中山俊憲 教授

近年、アトピー性皮膚炎花粉症といったアレルギー疾患にかかる人は増え続けており、今や国民の約3割にも上るそうだ。アレルギー性疾患に関わる私たちの体内の免疫システムは、この他がん動脈硬化などにも関わっており、しくみが解明されれば対処療法ではない、新しい医療につながる可能性がある。そこで今回は免疫発生学、なかでも免疫記憶に関する基礎研究に取り組み、去る2013年11月には、免疫反応のブレーキ役を果たす分子の特定に成功した千葉大学大学院医学研究院 中山俊憲教授にお話をうかがった。

免疫反応には「しきい値」がある

私たちの体は、外にあるいろいろなものから生体を防御しなければなりません。防御する相手も寄生虫ぐらい大きいものもあれば、ウイルスみたいに小さくて、細胞の中にしか感染しないもの、適度な温度・湿度で増える細菌かび……とまさに多種多様なんですね。また外から来るもののすべてが病気を起こすわけではなくて、大腸菌のように常在菌といって、持っていても何も起こさないものもある。そこで私たちの免疫システムは、とにかく自分のタンパク質でないものをすべて排除すれば、害のある物を排除できるという戦略を採っているんですね。極端に言えば地球上にないものが入ってきても自分にはないものならば排除できる。これを自己非自己の識別と呼んでいます。

私たちの体の中には約10の12乗個のリンパ球があって、体の中に入ってきた異物に免疫反応するしくみを持っているのですが、では本当に刺激のすべて反応しているのだろうか?──これまでは刺激の大きさに応じて、大きな刺激には大きく、小さい刺激には小さく反応しており、非常に小さい場合には反応を観察できないのだ、と考えられてきました。しかし私たちの最近の成果では、ある程度小さいものには、反応していなかったということがわかったんです。あるしきい値というものがあって、それを超えるものだけに反応し、それ以下の部分はノイズだから反応を鈍くするようなブレーキをかけておこうというわけです。そして、この役割を担うタンパク質「EZH2」を特定しました。これは実は、免疫学的なコンセプトを大きく進歩させるものなんです。

しかもこの発見は、創薬という視点から見ても、いろいろと応用的な展望が開けます。EZH2分子はアレルギーの症状の元になるものを押さえる機能を持っていますから、この分子の機能を強めればアレルギーの過剰な反応を抑えるほうへ働くし、逆に弱めれば、高齢者などに多い「免疫不全」を改善し、免疫力を強めることができるはずです。さらに、アレルギー反応が自分を攻撃する方向へ向かってしまう自己免疫疾患についても、この症状を抑えるお薬の開発が期待されています。

免疫記憶のいいところ・わるいところ

研究室全体としては、免疫記憶という現象の解明に取り組んでいます。私たちの体は一度入ってきた異物を覚えている。これを脳の記憶になぞらえて「イミューノロジカル・メモリー」と呼んでいます。このような免疫のしくみを利用した身近な例はワクチンですね。1980年の天然痘の撲滅は、免疫のコンセプトが医療に使われて成功した記念碑的な事実ですし、またたとえば1977年にスペインかぜと同種のインフルエンザ・ウイルスが流行したため、ある年齢以上の人は、この型にかかりにくいと言われるのも同じ現象です。ところが毎年作られるインフルエンザのワクチンは現在でも経験に頼っており、6月頃に東南アジアやスペインで流行しているものに新型を加え、副作用が出ないようにして接種します。つまり、体内のどこに細胞がいて、どうしたら免疫の機能を強めたり弱めたりできるのかは、まだわかっていない。これは免疫という分野にまだ残っている大きな問題なんですね。

またインフルエンザの予防接種を受けても、はしかには効きません(笑)。これは抗原特異性と言って、免疫記憶とそれが反応する病原微生物が1対1対応しているためです。具体的にはナイーブCD4 T細胞が刺激を受け取り、そこから先は病原微生物ごとに違ったプロセスをたどります。たとえばアレルギー炎症ではナイーブCD4 T細胞がTh2細胞へ分化し、Th2サイトカインを大量に分泌し、その一部がB細胞に働きかけて、IgE抗体の分泌を促進するというように次々と免疫反応を起こしていきます。

そこで免疫記憶のもうひとつの面は、病気を起こす悪い働きもあるということなんです。特に自己免疫系疾患では、自分の抗原に反応するT細胞と、この細胞に対する抗体をつくるB細胞といういわば敵と味方が、ずっと体内にあるという、治りにくい状況があります。このため現在の自己免疫疾患やアレルギーの治療は、過敏反応を抑える、ステロイド剤のような対症療法なんですね。症状を抑えるけれども、体の中ではどんどん記憶細胞が増えている。したがって、薬がだんだん効かなくなる。免疫記憶細胞のこのような悪い面の研究は、免疫記憶の研究者の中でもまだあまり注目されていませんが、免疫反応にブレーキをかける分子の働きをコントロールすることで、根治を目指すことができると考えています。

免疫システム解明のための融合と人材育成

2008年度からは千葉大学、理化学研究所、放射線医学総合研究所と共同で、グローバルCOEプログラム「免疫システム統御治療学の国際教育研究拠点」として、免疫システムとその制御による難治免疫関連疾患の治療の研究開発を推進しています。特にアレルギーと免疫については、小児科皮膚科、花粉症などに関わる耳鼻科、自己免疫疾患に関わる内科など臨床の先生方に参加いただき、基礎研究の重要性と治療への貢献へ向けて、意識を共有しながら進めています。もちろん共同研究の相手選びは非常に重要で、根本にあるのはやはり協力しようという人間性ですね(笑)。

アレルギーは全身疾患ですから、症状はたとえば鼻だけであっても、体の他の部分にも全部起こっていると考えられます。そこでこのプログラムではそれぞれを専門の医師が担当し、しかも免疫システムに関わる臨床分野が一通り揃った体制をつくることができたのも大きな特徴です。一方基礎研究を担当する私たちは、ふだんは個々の分子等を対象にして考えを進めているのですが、より大きく免疫システム全体を捉えたモデルやコンセプトのようなものを刷新し、前進させていかなければなりません。

また、2012年からは千葉大学大学院医学研究院が中心になり、博士課程教育リーディングプログラム「免疫システム調節治療学推進リーダー養成プログラム」を開始しました。このプログラムでは教育面に重点がおかれ、将来、世界の病院や製薬会社、医療に関する行政機関などで活躍する、免疫システムに関わるリーダー養成を目指しています。2013年4月から第一期生が入ってきており、国際色豊かな学生達が集まってディスカッションしたり、理化学研究所と共同でサマープログラムを開催したりといった環境の中で人材育成が行われています。