ポストコロニアル批評(Postcolonial criticism)とは、特に第二次世界大戦後に植民地から独立した後の(postcolonial)国々が、それまでのテクストがいかに西欧中心的な視座から描かれ、また独自の文化がいかに抑圧されてきたかといった疑問から、西欧の文化を問い直す視座を提供する理論だと言えるでしょう。
私の場合には、まずコンラッドに始まる主に20世紀前半から、第二次大戦が終結するまでの期間のモダニズム研究、そして20世紀後半から現代までのアフリカ、カリブ地域、インドなどの英語作家たち──この2つが、今でも研究の軸になっています。
留学から帰ってきた頃は、アフリカの英語作家は日本ではあまり知られていなくて、たとえばJ・M・クッツェー(John Maxwell Coetzee, 1940-)という作家については「名前をどう読むのか?」という質問を度々受けるほどでした。当時を振り返ると、日本人が英文学を研究するのになぜわざわざアフリカなのかという反応がものすごくあったわけなのですが、実は現代に近くなればなるほど、おもしろい文学活動をしている人って、アフリカやインドの人のような気がするんですね。
ポストコロニアルと言われる英語作家の中で、私が最もおすすめなのは、ジーン・リース(Jean Rhys,1890-1979)。短篇の"Let Them Call It Jazz "などを授業でも採り上げますが、いわゆる文法に則ったスタンダードな英語ではなく、独特の文体なので、学生はびっくりします。そういう時は、主人公が混血のクレオールという設定なので、その人がしゃべってるように書いているんですよ、と説明しています。
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Jean Rhys
Penguin Classics; New Ed版 2000年8月 ISBN-13: 978-0141183930 |
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ヴァージニア・ウルフ,ジーン・リース
河出書房新社 2009年1月 ISBN-13: 978-4309709536 |
暗いといえば暗いかもしれないけれども、独得のユーモアもあって、暗い自分を笑っているようなところがある。そういうところがとても面白いし、好きな作家ですね。