マウスは「近交系」といって、兄妹同士を20世代ぐらいかけあわせていくと、ゲノムがまったく均一になります。人間の兄弟であれば、ゲノムにたくさんの違いがありますけれども、実験用のマウスはゲノムがほとんど同じという状態にしてあって、見かけ上もまったく区別がつきません。遺伝子を1個ノックアウトしたらそれだけが違うという精度で条件を揃えることができるわけです。具体的には子供が生まれると正常型とヘテロ欠損、ホモ欠損の3種類が兄弟で出てきますので、正常型と欠損型とでテストしていきます。 われわれの研究室で行っているテストは約25種類で、作業をマニュアル化して工場のように次々とテストが行えるようなしくみを構築しています。たとえば箱に入れると音が鳴って軽微な電気ショックを与える、という条件付けを行っておいて、一定の時間が経ってから同じ箱に入れる。するとふつうマウスは必ず動き回るんですけど、覚えているとフリーズして動かなくなる。これをビデオカメラで撮影して、フリージングしているかどうか画像解析して、記憶の指標とする「恐怖条件付けテスト」があります。また分岐のある小部屋を使って(写真参照)、右へ行くとエサがあるけれども左へ行ってもエサがないというのを覚えられるか、という単純な「右左弁別課題」、それから直前に右/左のどちらにエサがあったか、覚えているかどうかを調べる「作業記憶課題」。さらに握力を測る「握力測定」、回し車のようなものに載せて走らせる「運動能力学習テスト」、マウスを熱めの台に乗せて温度の感受性を測る「ホットプレートテスト」、このほか統合失調症で障害の出る機能やうつ傾向があるかどうかを見るものや、社会的行動を見るものなどがあります。このように行動のカテゴリーごとに代表的なテストを選んで組んであり、またこのような検査の組み合わせを「テストバッテリー」といいます。 一方、独自のテストもいくつかあって、マウスの社会的行動を測るテストはその一つです(写真参照)。箱に2匹のマウスを入れてビデオを回しておき、2匹が近づいていれば塊が1つ、離れていたら2つという指標で毎秒解析を行うと、ふつうのマウス同士だったら近づくのでだいたい数値平均で1に近いのですが、社会的行動に障害があるマウスは離れようとするため2に近い数字になる。ちなみに、このアルゴリズムは最近特許を取得しました。
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interview 宮川剛教授