file01:ラッセルによれば……

私は10代の後半、哲学的な問題について個人的にものすごく悩んだ時期がありました。それは相当きつい経験で、その時何を学んだかというと、結局ある種の問題というのはいくら考えても答えが出ないから、ある程度考えたらやめてしまえ、ということなんです。ただしこれは意図的にやめるということであって、もしそれが本当に重要な問題ならば潜在意識の中できっと考え続けるだろう。1つの問題にあまりに囚われてしまうと、他のことが何もできなくなってしまうから、一度しっかり考えてみて、わからなかったらいったん潜在意識の中へ入れて、それ以上は苦しまないようにしよう、と。実はこれ、バートランド・ラッセルが『幸福論』のなかで言っていることなんです。

私の場合、壁にぶつかる体験は、もう数えきれないぐらいあるんですけれども、これは自分の生き方として、ぶつかっても「これは壁ではない」と思うように心がけています。

しかし逆に言えば「あきらめない」ということなんです。昔、教わって全然わからなかった統計手法が、10年も経つと音声分析の中で応用されていて、それを見た瞬間に「あっ!わかった」といったことが、やっぱり起こるんですね。学生が偉い人の書いた本を読んで、そこに「できない」と書いてある研究テーマをあきらめることがあります。そういう判断はあり得るけれども、できないのかどうか、本当はわかりません。

研究者の資質として、問題を発見する能力と解決する能力が必要だと言われます。確かにこれは車の両輪であって、どっちがなくても車は動かないけれども、どっちがより本質的かといえば、私は問題設定のほうだと思います。そしてその際、なぜ自分がこの研究をやるのかということをきちんと説明できることも必要です。今の若い人たちは、そういうところをしっかり発言していかないと、生き残れないんじゃないかという気がしますね。

TEXT : Kikuo Maekawa, Rue Ikeya  DATE : 2011/02/04