私たちが生きていく中で、情報というのは、日常的に絶え間なく入ってきますよね。脳は、何かが入ってきた時に何かが応答するというI/O装置のようにはたぶんできていなくて、ずーっと連続している時間の中で、その状態が固定しないまま、ふらふらと七変化のように遷移しているんですよ。
これ、「オンゴーイング」っていうんですけど、刺激に対して脳が応答する様子を、時間ダイナミクスで見ていく。つまり今までの研究アプローチで取られていたような、ある刺激を与えたとき、脳のこの部分がこう反応するというような相関の追求だけでは、脳を捉えることはできないんですね。たとえば1個ニューロンは、だいたい1万ぐらいの入力をオンゴーイングで受けているんですけれども、もし自分が細胞だったと想像してみてほしいんですけど、そんな情報の暴風雨の中では今自分に入ってきた情報がどこで入力されたかさえ、たぶんわからない。
ここで重要なのは、実は脳の状態は、外からの情報がなくても勝手に遷移しているってことなんです。ですから、こういう状態の時にある視覚情報が入ってきたら、確かにこんなふうに反応するけれども、時間的に少し後で違う状態の時に入ってきたら、まったく違う反応をする。脳がそのように、のそのそ、ごろごろと勝手に遷移する状態というのが、ひとつの自律の系としてあり、それが作動することによって、脳とその外部という境界を生むんです。すると境界の外にある情報は、脳に対して「攪乱」と捉えることができます。脳は攪乱を取り込んで、それへの反応のしかたに応じて、さらに自分の状態を書き替える。これを私は「セルフリライタビリティ(自己書き替え)」と呼んでいます。