私の場合、ニューヨークのコロンビア大学に、80年代の終わりに2ヵ月ほど、そして1992年には客員教授として1年弱、滞在したんです。第一回目の滞在のとき、新刊本屋の棚いっぱいに女性研究があふれていて、自分がいかに男性優位的な読みをしていたかということに気づいたんですね。源氏物語というのは女性研究ですから、自分が今までやってきたことが、がらがらっと崩壊すると言いますか。実際それ以降、自分の源氏物語の読みががらっと変わりました。このような体験ができたことは、自分の研究史のなかで本当に幸運だったと思います。4年後に行ったときは、この問題がもう少し普遍化して、黒人文学やマイノリティーの問題、麻薬あるいはエイズに社会がどう偏見なく向き合うか、というふうに変化していました。
私の研究の出発点は構造主義で、特にレヴィ=ストロースは私のなかで40年生き続けて、最後まで残りました。それでもレヴィ=ストロースはどこかで、男性から見た女性の交換システムを論じているんですよね。それを受け入れたうえで、1990年代に入ってから、ポスト冷戦から湾岸戦争とその後の変化の中で、自分のなかで転換させていったのだと振り返ります。また現代の状況の中では、このように着実に方法の変遷史があり、古典を対象とする研究であっても他の分野と一緒に右往左往してきたはずだという思いはありますね。
これからの研究者に役立つ本、自分自身に影響を与えた本を挙げるとしたら、ひとつはレヴィ=ストロースの『神話論理』四部作(邦訳全5冊)です。70年代に知り、当時から翻訳が出ると予告されていながら、40年間訳出されなかった本です。数年かけて読み続けたい本であり、同時にみなさんにも薦められる本ですね。
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クロード・レヴィ=ストロース
みすず書房 2006年4月 ISBN-13: 978-4622081517 |
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クロード・レヴィ=ストロース
みすず書房 2007年1月 ISBN-13: 978-4622081524 |
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クロード・レヴィ=ストロース
みすず書房 2007年9月 ISBN-13: 978-4622081531 |
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クロード・レヴィ=ストロース
みすず書房 2008年11月 ISBN-13: 978-4622081548 |
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クロード・レヴィ=ストロース
みすず書房 2010年2月 ISBN-13: 978-4622081555 |
もう一つは、私の好きな学者のひとりである大野晋の『古典基礎語辞典』です。2008年に亡くなった大野さんの最後の辞典であり、日本の古典にある基礎語を、日本語のベースとしてこう読むんだ、ということがわかるすごい辞典です。
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大野 晋
角川学芸出版 2011年10月 ISBN-13: 978-4046219640 |