私たちはよく、感染症にかかった肺の中を顕微鏡で見ます。インフルエンザウイルスなどの強い刺激が入ってくると、最初に刺激に触れるのは上皮系だと考えられています。上皮系がまず「刺激が入った」というアラートを出し、それに免疫系細胞や毛細血管が反応して、毛細血管から肺の中へ体液が漏れ出し、炎症細胞もどんどんリクルートされてくるんですね。
ふつうの正常な肺では、ガス交換(呼吸)するための壁があって、これは、薄っぺらい「I型肺胞上皮細胞」、サイズの大きい「II型肺胞上皮細胞」、「マクロファージ」、この他「血管内皮」「線維芽細胞(Fibroblast)」等で構成されているという感じで、あとは空気を取り込むためのスペースになっており、比較的単純な構造です。
ところが肺炎になっている肺は、体液が漏れ出て「肺水腫」の状態になる。顕微鏡で見ても、すごく蛋白含量の高い液が溜まっていることがわかります。刺激に対抗しようと最初に肺に集まる細胞には、「マクロファージ(Macrophage)」や「好中球」などがありますが、その中にも死んでいるものや、生きているものなど様々に混じっていて、肺の中に大量かつ雑多な細胞集団を形成してしまっています。本来ならば空気が入っていてほしいところ(肺胞)に、いろんな細胞成分がいろんな状態でごちゃごちゃ存在するという状況です。しかもこの肺胞の炎症反応には大きな個人差があり、元気な人なら生体が早くリアクションを起こすので、効率よく一連の免疫反応が働いて治る方向に向かうし、弱っている人はいつまでも弱い炎症がくすぶっているという感じで、生体が治る方向に舵がとれないように見受けられます。そこをなんとか、人為的に舵取りするために、まず呼吸器感染症の病気の進行を把握した上で、遺伝子の反応パターンをよく観察してみようと考えています。