file 01:音楽教育の場所

日本の音楽の伝統というのは、ある意味で、やはり邦楽です。ところが邦楽はいわゆる家元制で、これがずっと千年以上続いているんですね。それぞれの流派の弾き方とか節回しとかがあってそれを身に付けるというのがお稽古で、また精進するといった精神的構造についても独自なものがあるのではないでしょうか。そういった部分が他とまざりにくかったためか、日本で邦楽科がちゃんとあるのは、現在も東京藝術大学だけなんですね。

一方、文明開化の時代、いわゆる西洋音楽が入ってきたときに日本がお手本にしたのは、ヨーロッパの学校でした。ヨーロッパの学校は、ベルリン音楽大学(現・ベルリン芸術大学)にしても、パリのコンセルヴァトワール(フランス国立高等音楽院)にしても、みな音楽や芸術に特化したシステムになっています。併設する学科があるにしても、パリではバレエ、ウィーンやベルリンでは演劇くらい。今でもヨーロッパの大学というのはだいたいそのようなしくみになっています。

しかしカナダやアメリカの場合は、ジュリアード音楽院やカーティス音楽院といった音楽専門の学校もありますけれども、そのような学校は本当に少なくて、音楽教育はほとんど総合大学のなかにあります。いわゆる一般教養としての音楽から始まって、そこから本当に優れた人が音楽を専門とするようになっていく。というのもひとつには、アメリカやカナダの人たちは、あまり小さいときから進路を決めないんですね。もちろん小さい時からレッスンを受けたりすることはあるにしても、本当に自分が音楽をやりたい、この道へ行きたいということは、高校ぐらいで決めるのがふつうです。