file 03:大学で学んだこと

大学時代は法政大学で、特に発達心理学に関する研究で広く知られる乾孝先生に師事しました。先生の考えというのは、こうなんです─調査の方法は対象に根ざして選択されるものであって、既存の方法が科学的なわけではない。対象をよく知って、最も対象に根ざした方法を自分で工夫するのを科学的姿勢というんだ─と。「対象の本質に根ざした方法論がとれなくて科学的といえるか」。「客観」という言葉にも厳しくて、「自己との関係性を無視して向こう側に対象を置いてみることではなく、その同じ床に立つ者である自己も含めて対象化する目線を持つこと」と言われました。

幼児にお芝居を観賞させて感想を聞くような観客調査でも「どこに感動しましたか?」と、子供に後で尋ねたりするのは「それが対象の本質に根ざしているか?」と先生は言われました。

先生の方法は、子供にペロペロキャンディを持たせるのです。子供は夢中になると、舐めている口の動きが止まります。それがどのタイミングでどのシーンで起こり、いつふたたび動き始めるのか? それを全部記録しておいて、動きが止まったシーンを重視して、あとでその話を訊く。それで初めて「あの時はねぇ……」という子供の話を引き出すことができるわけです。全部終わってしまってから訊いたって、子供は直前しか覚えていなかったり、自分からはうまく言えないものです。

その後、アイカメラという機器を使って、子供の視知覚データをとる研究が流行ったときも、子供には重すぎて頭が下を向いてしまうアイカメラでは下方視野しか取れないし子供が苦痛だと言って使用を禁じられました。だから、手間のかかるアナログな方法で丁寧な実験をしたものです。「道具は科学的でも、それを子供に使用することは科学的でも客観的でもない」という言葉、いまも忘れられません。