file 01:量子はコピーできないという原理

量子には常識ではなかなか理解しにくい不思議な現象がたくさんありますが、このうち「ノークローニング定理」と呼ばれる、量子はコピーできないという性質があります。

量子力学によれば、物質は「粒であり、波である」という性質を持っています。したがってたとえば量子的な状態にある光子は、ふつうに考えれば電磁波の一種ですから「波」でありながら、ひとつの「粒子」でもあると考えなければなりません。このような光子がどんな量子的な状態にあるかを知るには、科学では一般に測定を行います。ところが量子力学では、「測定する」という操作によって量子状態が壊れ、どんなに修復しようとしても元には戻らないという性質が知られています。さらに量子状態は、極めて幅広い状態をとることができ、そのうちのどの状態にあるかがわかっていない場合には、このコピーを作ることができないことが数理的に証明されています。これが「ノークローニング定理」です。

ところで、このことが量子鍵配送の盗聴を防ぐために、非常に大きな役割を担ってくれます。量子鍵配送では光子ひと粒ひと粒に乱数の情報を載せて送り、受信側で光子を検出して情報を受信します。通信経路の途中に、仮に盗聴者が出現して光子を取得しても、どの状態にあるかがわからない光子のコピーを作ることはできません。また光子がどんな状態にあるかを知ろうとして「測定」を行えば、どんなに精巧に行っても必ず量子状態が壊れて光子の状態が微妙に変わってしまいます。これが受信者側の光子検出器で、はっきりとした盗聴の証拠として検出されるため、盗聴を見逃すことがないのです。現在の装置ではこのようなチェックを常に行い、少しでも不審な形跡があれば次々と鍵を変えることによって、高い安全性を維持するしくみになっています。