file 02:人文学を活用できないのは誰か?

理系の知識と技術発展さえあれば、自動的に物が売れるのか?─もちろんそんなことはないですよね。先ほども言及したように人文学は役に立たない、とよく言われますが、活用のしかた次第だと思います。あるコミュニティで売れる物を作るにはそのコミュニティの意味世界を知るのが一番ですから、特にそこで新しいものを提案する場合、本来はかなり使えるはずなんです。その場その場で異なるコミュニケーションという領域は、企業にとっても本当は重要なのではないでしょうか。そうした素養は当然ながら一夜にして身につくものではありません。日本の企業は文系の学生に漠然と語学力とか社内や業界で通用するコミュニケーション能力なるものしか求めず、それ以上深く人文学を知ろうとはしてきませんでした。知らないものを活用できるはずがありません。

これまで日本企業を支えてきたもののひとつは、間違いなく長時間労働です。長時間労働と理系の知識に基づいた技術発展によって、業績が上がった。しかしこれからもそうでしょうか? また、それは効率的だったでしょうか? 技術を使うのも買うのも人間であるという当たり前の事実から考えていけば、儲けるために探るべき領域はなにも理系の領域には限られないと思います。人文学は役に立たないという声は、技術革新をして従業員を絞り上げていきさえすれば、あとは日本ブランドの威光でもって自ずと物は売れるだろうという貧しい発想の裏返しではないでしょうか。