マイスターのひとり稲垣悟さんは、複写機メーカーで設計、開発に関わってきた技術者である。「仕事は必ずチームで行うもの。仕事をどう組み立てていくのか、チームのメンバーの力を最大限に引き出すにはどうしたらいいのか、工学知識が必要なのはもちろんだが、プロジェクト・マネージメントのセンスが発揮できるかどうかは、製品の開発においてとても重要」と話す。開発とは、世の中にある技術の組み合わせである。時代の流れや社会の要請、動向を見つめ、どのような技術、製品が求められるのかを自分なりに咀嚼しなければならない。その上で、いま社会にどんな技術があるのか、それらをどう組み合わせれば最適な製品を作れるのかなど、技術者として独り立ちするのに必要な要素をすべて学生に伝えたいと、マイスターを引き受けたという。
かつて、こうした教育は入社後、仕事をしながら行われた。しかし、現在では企業にその余裕がなくなり、学校できちんと教えてほしいという企業の事情は切実だ。こうした機運や開発現場の意向がダイレクトに理解できるのも、マイスターならではだろう。「最近はアクティブラーニングという概念を教育に取り入れようという気運が高まっていますが、高専の教育はアクティブラーニングの基本形とも言える」という言葉は、長年社会を見つめてきた技術者の重みを感じるものである。今後の、教育機関と産業界のつながりについても、大きな示唆を与える取り組みだ。