私たちは小さい時から、分解すればわかるという教育をずっと受けてきました。要するに1960年あたりに構造主義という考え方が出てきて以来、いわば“生まれながらにして構造主義”的な環境で、それを当たり前のようにして育ってきたんだろうと思うんです。だから「わかる」を変えるには、教育レベルから変える必要がある。一方で、研究によって脳の作動システムがわかってくると、私たちの自然界を理解するしかたも変わってくると思うんですね。「自然は芸術を模倣する」と言ったのはオスカー・ワイルド(Oscar Wilde "The Decay of Lying", 1889)ですが、ふつうなら美しい自然を絵に描く、写生すると考える。ところが人は写真や絵を見て初めて、なんていい風景なんだろうって逆に発見しているんだと。この意味で、近い将来、脳科学やシミュレーションなどの成果が人間や社会について新しい解釈をもたらす可能性があって、新規な哲学ブームを起こせるんじゃないかと考えています。