file 04:内にある本質を外から知る術

人間の持つ感情について知るには、たとえば脳の研究によって分かるのかもしれません。ただ脳の中で起こる、気持ちを持ったり、判断したりといった働きには、必ずアウトプットがあるんですよ。たとえば怖いと思えば筋肉が緊張するので、その時に発する電気的な信号を取得するというように、必ず外からも計測できるものがある。科学的な新しい計測手法を使うことによって、私はそのような内と外を関係づけていくような、もっと人間の本質的な理解を深めていきたいと考えています。

たとえば上司が後ろから近寄ってきたら、緊張しますよね? すると筋肉に力がはいるので計測できる。あるいは逆にイライラして部下を叱ってしまうといったことも、計測していれば「あなた今、怒っていますよ」ということが分かるかもしれない。原理的には、ほぼ確実にできるはずです。

こういったことは、今までのエレクトロニクスが実現してきた単に計算を速くする、あるいは記憶容量を上げるということとは本質的に異なるものだと思うんですね。やわらかいセンサーによって、本当に日常的な普通の環境下で生体計測ができるようになると、エレクトロニクスが、今までは無関係だった「人間の内面」という領域へ踏み込んでいく可能性を持っています。

たとえば新しい椅子をモニターするといった場合を考えてみると、ある意味で人間そのものがセンサーですから、座っていてお尻が痛くなる椅子がだめだということは、簡単にわかります。では座るテストが終わって、さて「この椅子が好きですか?」というと、これは感性の問題ですから、簡単にはわからない。現代社会ではさまざまな商品の完成度が上がって、さらによくするにはどうすればいいのか、人に心地よいと思ってもらうにはどうしたらいいかといったことが重要な情報になってきますが、今のところ数量的に計測する術がありません。

個人情報そのものなので、当然、ポジティブな側面もあればネガティブな側面もあります。エレクトロニクスが人間の内面にまで迫る一歩手前まで来ている今、ここから先、どう使ったら人間の幸福福祉に貢献できるのか、みんながあってよかったと思える技術になるよう、多くの人々と一緒に考え、進めていくのが重要だろうと考えています。