file 03:「好きは仕事になる?」の答え

植物を興味の中心としたのは小学校の中学年ぐらいからです。それ以前は「昆虫少年」だったのですが、昆虫は種類が多すぎて、そのへんにいる昆虫ですら全部を知ることができない。海外や離島に行くと知らない種類がいる、というのならまだ我慢ができますが、それどころではなくて、近所の草むらですら、名前のついていない未記載種がいっぱいいるわけですね。それではつまらない。そこで、日本国内でならすべての種類について名前がわかっている植物に転向しました。それ以来、植物なんです(笑)。見たからには、やはり何であるか知りたいですからね。

ただ本当に研究者として植物をやろうと思ったのは、だいぶ後。東大の場合、一般教養課程が終わって大学3年に進学する時に専攻を選択するのですが、その時ですね。理学部の植物を選んだわけですが、その際にちょっと思ったのは「好きなだけでここに進学していいのかな」と(笑)。

趣味と仕事の一番の違いは─自分が楽しい間だけやるのが趣味、楽しくなくなってもやるのが仕事です。趣味の人というのはいます。好奇心が強くて割といろんなものを調べ出すのだけど、調べたり実験した結果ちょっとわかった気になってしまうと、その先、詰めをやらない……これでは結局、何も残りません。これは趣味。やはり仕事である以上は、わかったことを、人を説得できるところまでもっていくことが必須です。人を説得できるレベルでないということは、自分自身もわかっているとは言い切れない。本当かどうか疑った誰かに議論をふっかけられたら、きっと反論できないでしょう。職業として生物学をやるのであれば、好きだというだけではなく、粘り強さと根気も必要です。

[写真の植物について]
塚谷教授が指し示しているのは、江戸時代から伝わる椿の突然変異体。2枚の葉がくっついてハートのような形になったり、漏斗状になったりなど様々な形が見られ「七変化」として知られた。椿は、江戸時代に多くの園芸品種が確立され、鎖国時代に長崎の出島に来日したシーボルトも注目して持ち帰った。