観察の積み重ねは、人の心の中に独特の世界観を作る。積み重ねの先に、驚きや気づきがある。少年時代の中垣さんが夢中になったのは『ファーブル昆虫記』だった。
特に虫が好きだったわけではない。しかし、ここに記されているハチの振る舞いには心惹かれるものがあった。イモムシにハリを刺して麻痺させ、卵を産みつける。ふ化した幼虫はイモムシを食べて成長する。その時、イモムシの身が新鮮であり続けるように、神経や心臓など生命に関わる部分を後回しにして食べていく。その姿は、とてもシステマティックであり合理的だ。そんな生態を丹念に観察するファーブル。彼は、どこか特別な場所に行くわけではなく、ごく身近な原っぱをフィールドとした。そして、だれもが特別と思わなかった場所で彼にしか見えない世界を見つけ、観察した。そのことによって、だれにも見つけられなかったものが彼には見えてくる。見識しだいでおもしろいことができることを、私は彼から学んだのです。
ファーブルは生物だけで半買う物理や数学が得意で、今のサイエンスの分野を一通り知っていた。それらの分野が彼の中でネットワーク化しているのだと思う。「そんな世界にあこがれる」。