本記事は、平成26年4月施行 の 「大学等及び研究開発法人の研究者、教員等に対する労働契約法の特例」 が施行される前の取材時の状況に基づいて作成されております。
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「いま聞きたいこと」第1回

改正労働契約法は大学にどう影響をあたえるか?

研究をとりまく環境の変化のひとつに、雇用の問題があります。多くの先端研究を支えている人的リソースのなかには研究員、ポスドク、非常勤講師、大学院生、事務系職員など、いわゆる「期間に定めのある労働契約」も少なくないのではないでしょうか。そのような中、去る2012年8月10日、有期労働契約に一定のルールを導入する「改正労働契約法(労働契約法の一部を改正する法律)」が公布されました。本格的な施行を迎える2013年4月1日、大学や研究機関における雇用は、この法律によってどう変わるのか?──施行に先立ち、今回の改正の概要と、今想定される改正後の有期雇用について、労働法に詳しいBLT法律事務所の坂本正幸弁護士にお聞きしました。

坂本正幸 弁護士

BLT法律事務所所属。労働者側、雇用者側の双方の立場で労働法を扱う。著書に『労働事件処理マニュアル(新日本法規出版 2011)』『情状弁護ハンドブック(現代人文社 2008)』他。近年はミャンマー進出業務の法務支援にも奔走する。

 

労働契約法はどのような経緯・目的で改正されたのでしょうか?

2003年に労働基本法の改正により、有期雇用契約の期間の上限が3年というルールが示されました。しかしながら契約期間を短くして雇用を繰り返し、正社員にしないというかたちの雇用は日頃よく見られるところであり、非正規のワーキング・プアの問題も指摘されています。またこのような労働契約において「一定期間繰り返し更新していたのに、突然更新しないと言われた」といった、いわゆる「雇止め」と呼ばれるケースが、社会的に大きな問題になっています。

そこで今回の労働契約法改正は、このような1年契約、半年契約など契約期間に定めのある「有期労働契約」が繰り返し更新される中で生じる「雇止め」への不安を解消しようという目的で定められました。実際、雇用労働者に占める有期契約労働者の占める割合は22.5%・約1200万人にのぼると言われ、このような有期雇用の濫用的な利用を規制しようというのが法律の趣旨だと思います。

 
 

有期労働契約について、基本的な改正ポイントを教えてください。

今回の改正の大きな特徴は、労働契約の期間について定めたものだという点です。逆にいえば、職務内容や労働契約を限定していないため、有期雇用であればすべて対象になります。改正ポイントは大きく3つあり、まず1つは「無期労働契約への切り替え(第18条)」です。これは、施行の4月1日以降に開始した有期労働契約の通算契約期間が5年を超えていて、契約が1回以上更新された場合、労働者に無期労働契約への転換権が発生するというものです。契約が更新されたということは、「期限が終わってもまた仕事があるんじゃないか」という期待があり得るからです。

2つめは「雇止め法理の法定化」で、「雇止め」とは、有期労働契約の期間満了時に使用者が更新を拒否して雇用が終了することをいいます。雇止めはこれまでも裁判で争われてきており、労働者保護の観点から一定の場合にこれを無効とする最高裁の判断を、そのまま法律化したという性格を持っています。この雇止め法理の制定法化については、すでに2012年8月10日の公布と同時に施行されています。

3つめは「不合理な労働条件の禁止」です。無期転換後の労働条件を、使用者が合理的な理由なく低下させないよう配慮した内容です。ただ「別段の定め」を置くことはできるとされており、その具体的な内容については、今後施行を迎えてから、さまざまな議論が出てくるものと考えられます。

 
 

無期への転換はどのように行われるのでしょうか?

まず対象となる有期労働契約ですが、2013年4月1日以後に開始した有期労働契約が対象になります。契約が1回以上更新され、契約期間が通算5年を超えると、その契約期間の初日から末日までの間に、労働者は使用者に無期転換の「申込み」をすることができます。申込みをすると、使用者がそれを承諾したものとみなされ、その時点で無期労働契約が成立します。そして申込みをした有期労働契約が終了する翌日から、無期契約へ転換されます。なお2013年3月31日以前に開始した有期労働契約は保護されず、契約期間を通算することはできません。

さてここで、無期転換申込権は労働者の権利であり、申込みがされると無期労働契約が即成立するのがポイントです。無期転換前に使用者が雇用を終了させようとする場合は、無期労働契約を解約する必要があり、この場合「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合」には無効となります。また、無期転換を申し込まないことを契約更新の条件とするなど、あらかじめ労働者に無期転換申込権を放棄させることはできません。

 
 

契約期間はどのように通算されるのでしょうか?

たとえば2013年4月1日に契約期間1年の労働契約を締結し(起算日)、これを毎年更新したら2018年の4月1日に、5年を経過します。これは6年めの更新の最初の日であり、ここから契約満了の日までの1年の間に、労働者は無期転換の申込みをすることができます。また契約期間が3年で、締結から3年後に更新した場合も、通算契約期間が5年を超えるのは同じく2018年4月1日です。またこのケースでは、更新した契約が開始する2016年4月1日から無期転換の申込みを行うことができます。ちなみにもし6年契約ならば、契約満了時に一度も更新をしていないため、実は今回の改正労契法では対象外となりますので、注意が必要です。

また通算契約期間は、一定のクーリング要件を備えています。有期労働契約と次の有期労働契約の間に、契約がない期間が6か月以上あるときは、その空白期間より前の有期労働契約を通算することはできません。通算対象の契約期間が1年未満の場合は、その2分の1以上の空白期間があれば、それ以前の有期労働契約を通算契約期間に加えることはできません。

 

では次ページ以降、施行後の大学や研究機関で想定される具体例に沿って、
どんな対応をしていけばよいかを確認していきましょう。

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