file01:ショウジョウバエと遺伝子

ショウジョウバエは腐ったフルーツがすごく好きで、お酒などにも寄ってくる、体長約3ミリメートルの小さなハエです。お酒が好きなことから、やはり酒好きな妖怪である「猩々(しょうじょう)の神様」から名前をもらったと言われています。一方英語では「fruit fly」といって、フルーツに寄ってくるハエと呼ばれています。ところでこのショウジョウバエ、理科の授業にも出てくるのですが、なぜかというと、遺伝学とのかかわりが深いからです。

生物学のさまざまな分野でモデル生物として実験によく使われるのは、キイロショジョウバエ (Drosophila melanogaster) という種類のショウジョウバエです。これを使った遺伝学の研究で、T.H.モーガンという人が最初の突然変異体を発見したのが1910年といいますから、ショウジョウバエを使った実験の歴史には、かれこれ1世紀の蓄積があります。以来多くの研究者が扱う間にいろんなテクニックが開発され、それが蓄積されてきていることが、生物学においてショウジョウバエを特別な地位へと押し上げています。これがちょっと別の生物─たとえばイエバエとかミツバチなどでやろうとしても、途端にうまくいかないわけです。目が白い/赤い、ニューロンを発光させる/遮断する、といったいろいろな実験的な操作を高い精度で行うことができるのも、ショウジョウバエならではと言えるでしょう。

日本では普通に見かける昆虫ですが、研究室で使っているハエは採集しているわけではなくて、キイロショウジョウバエ専門のストックセンターから購入しています。ちなみに、今実験室で飼育しているキイロショウジョウバエと同じ遺伝子を持っているハエは、自然に飛んでいるものの中にはいません。日本では京都に「ショウジョウバエ遺伝資源センター」があり、私たちの実験にはなくてはならない施設です。

注文すると、1チューブ1系統として送られてきて、ブドウ糖とイーストと寒天を混ぜて溶かした、ちょうどパンのようなものを餌として入れて飼育します。1本のチューブで成虫、幼虫、さなぎを一緒に飼うことができます。室内を摂氏25度に保っておくと、ハエにとっては環境がいいため、10日後にはもう、子どもが生まれてきます。1カ月あれば3世代の実験ができるサイクルの速さも、実験にとって利点のひとつと言えるでしょう。またショウジョウバエは行動が比較的多彩で、求愛歌を奏でたり、攻撃行動も見られることが知られていて、そのようなおもしろい行動をするのも魅力のひとつだと思います。また最近は、ショウジョウバエを使ったの研究が増えつつあり、アメリカで専門の研究所が設立されるなど、ちょっとした活況を呈しています。

TEXT : Azusa Kamikouchi, Rue Ikeya  DATE : 2010/06/22