file 01:基礎研究から製品へ

僕は、研究者はいい論文だけ書いていればいいという考えもあると思うけれども、やっぱり世の中に直接役に立つものを作るということも大事なことなんですね、特に材料は。もちろん大学にいるわけだから、ベーシックな部分からやらなければならないのはもちろんです。そして実用化は、直接には、企業の人たちの手で行われていく。そのコンセプトになるぐらいのものは作らなければならないと考えています。

材料が本当によければ、企業の人は使うんです。ところが大学から出てくる論文には、いいところだけ書いてある面があって、かえってデータが信用されていない傾向がある。企業は本気になれば、全部自分たちで試します。だから僕はむしろデータを抑え気味にして高い値を言うな、というふうにやってきた。われわれがうそばっかり言っていたら、それは絶対だめですよ。

しかし実用化の過程には、いろんなトラブルあります。なぜなら、まったく新しい材料なので、今まで培ってきた常識が使えないからです。そこのところは、科学と技術を橋渡ししていかなければいけないわけですが、実際には、これを体験することって滅多にないんですね。ところがある企業がディスプレイを試作し始めてトラブルが起こり、原因がわからず困り果ててしまった。今から思えば予期されたことなんだけど、実際に作られてみるまで、われわれもわからなかった。なぜなんだろうなと思った時に、僕の頭の中でそれとは一見全然関係のない別の研究が偶然結びついて、解決に至ったということがありました。これまでずっと材料に取り組んできたなかでも、たいへん象徴的な体験でしたね。

参考図書:

細野秀雄 (著), 神谷利夫 (著)
ソフトバンククリエイティブ   2006年11月   ISBN-13: 978-4797337327