file 02:国益ってなんだろう?

日本がどうやって食べているかというと、まだやはり物を作って売っている部分ですね。世の中にお米とおかずとビタミンの部分があるとすれば、材料の研究というのは、食べていく研究ですから、どうやって国が食べていくかということも、研究者は考えないといけない。

僕の場合は、特許の権利は個人では持たないので、国が知財で稼ぐということもある。では「国益」ってなんだろう?……と考えると、たとえば今、パソコンという製品ひとつの中にだって、特許が100も200も入っていますね。その中には日本の特許もあるし、海外の特許もあって、お互いに使い合っています。するとたとえば日本の特許を海外の企業にライセンスしないという状況を作って、日本の国だけで閉じたら、当然、日本の製品が作れないわけですね。

もし日本の産業全体が世界のリーディングカンパニーであれば、市場がとれます。日本の企業が新しい開発に対してアグレッシブであれば、特許を使うでしょう。しかし今の状況は必ずしもそうではありません。国のお金を使って、研究者が一生懸命オリジナルなことを考えて特許を取っても、世界のどこもライセンスしない、日本の企業も使わない……そうなれば、新しい材料もそのままお蔵入りということになってしまいます。これは生み出した研究者にとっては耐え難いことです。

国益に関連してもうひとつ、僕が関係していることで思ったのは、じゃあ留学生はどうなんだろう、ということです。海外からの留学生を日本のお金で教育しても、彼らは日本の中に残るどころか、かなりの人が国へ帰りますから、短期的に見たら国益にならないですよね。しかし別の見方をすると、彼らは日本の研究を支えている面がある。今、日本の大学院生から留学生を除くと、博士課程の学生は半分以下になってしまいます。留学生がいなければ、日本の研究をどんどん縮小していかなければならなくなるでしょう。また、長期的には彼らと人脈ができて、プラスの面が大きくなります。

ちなみにアメリカのカリフォルニアの州立大学では、これまで中国からの留学生の授業料を安くしていたのですが、最近、非常に厳しく値上げしたんです。というのも、彼らはいままで卒業後もみんなアメリカに残っていたのですが、近年の中国の発展で、自国に帰る人が増えてきたわけですね。カリフォルニア州にとっては、税金を使ってもメリットがない。この議論は、象徴的だと思います。