僕らが開発した透明アモルファス酸化物半導体「IGZO(インジウム-ガリウム-亜鉛-酸素)」の特許で国際出願したところ、なぜか韓国で拒絶されてしまったんです。その理由は、「容易に類推できる」というものでした。しかしそれは学術にオリジナリティがないということだから、さすがに僕は承服できなかった。それに学会で認められているものが、司法で簡単に否定されるというのは、僕は誤解だろうと思いました。そこで韓国特許庁を相手に、審決無効裁判を起こすことになったんです。統計的には勝率10%くらいですが…実は勝ったんですよ。
今使われているシリコンで、代表的なものがアモルファスシリコンです。そこで半導体の教科書をひもとくと、最後のほうのページで20分の1ぐらいの分量が当てられている。ところが実はアモルファスの半導体なんて、ほとんど動かないんです。現在使われているアモルファスシリコンは、そこを克服したからこそ使われている。したがって、現在動いているアモルファスシリコンを満たす条件から、とてもではないけれど、容易に類推できるわけはないんですね。このような半導体の歴史をエビデンス・ベースで、韓国の法廷へ行って、参考人として約1時間ぐらい英語で説明しました。
裁判官たちは僕の話の途中で、あっ、と理解してくれて、結局、約一週間で判決がおりました。このような裁判は、通常はその国の弁護士事務所に依頼するのですが、出向いて行って話してよかったと思いましたね。その後、韓国の企業がライセンスを取得したのですが、その時もし負けていたら、特許が使われる方向へは動かなかったかもしれない、と振り返ります。