計算錯覚学のプロジェクトには3つのチーム・計8人のメンバーがいます。それぞれのチームには、メンバーに脳科学、心理学、メディアアートなど計算以外の手法の研究者も入っていて、分野間で知見が拡がったり、刺激を受け合ったりという例がたくさんありますね。またそれぞれが専門とする応用分野へもつながりやすくなっています。
新井仁之教授(東京大学)のチームでは、二次元の図形に関する錯覚を扱っており、脳内で視覚的な情報がどんなふうに処理されているかという数理モデルをつくっています。このモデルと、心理学的にわかっている脳のふるまいとを突き合わせることで、今、モデルがどんどん進化しているところです。
それから山口泰教授(東京大学)のチームは、人間とコンピュータが対話するという部分で、コンピュータグラフィックスやわかりやすいインターフェイスで錯覚を利用したり、錯覚をなくしてスムーズなコミュニケーションができるようにしたり、といったことを考えようとしています。
私のチームは、主に立体に関する錯覚を扱っています。たとえば世界のいろんなところに「おばけ坂」とか「ミステリーロード」と呼ばれる観光スポットがありますが、このような坂道では、車のドライバーから見ると、実際には上り坂なのに下り坂にしか見えないといった錯覚が起こります。錯覚によって車のスピードが落ちるため、自然渋滞の原因にもなっていることがわかってきています。実際の道路をよく見ると道路の際に壁のあるところが多く、壁に積んである石や模様が道路に平行につくられています。これが海面に対して水平なら、きっと錯覚が起こりにくくなると思うのですが、トンネル内のパネルや防音壁などもみんな道路に平行に貼ってあるため、このことが水平をわかりにくくしています。どうしたらドライバーから見て錯覚の起こらない道路を設計できるのか、渋滞緩和への貢献を目指しています(錯覚美術館に展示しているのは、メンバーの友枝明保特任講師(明治大学)が担当している錯視量測定のための道路模型です)。