授業では、私は最初に強烈な例をいくつか出して、ショックを与えることにしています(笑)。
たとえば血液型性格判断というものがありますね。授業で学生に性格テストをやってもらって、成績をつけて、血液型と関係があるかどうかを統計的に算出します。まあ、基本的に関係はないという結果が出ますね。そこでこのデータを学生たちにみせると「そんなはずはない」と。「だって自分はそうだし、自分が知っているなんとかちゃんはそうだし」……という話に、必ずなる(笑)。
現場主義というか、なんていうんでしょうね。自分が経験したならばそれは正しい、1回経験してしまえばもうそれで終わり──といった思考の傾向は、すごく強いと思うんですね。
たぶん進化の過程で、人類はそういった現実の例を積み重ねることで、いろんなことを判断してきたんですね。一方、統計学なんていうのは大学に入ってからであって、まだほんの習いたてなわけです。また、具体的な物がいくつあるということはわかるのだけれども、抽象的な比率のようにちょっと抽象化すると、理解しにくくなる。それはやはり、脳がそういうふうにできているんだと思うんです。これと同じように具体例というものも、人間にとってすごく説得力があるように出来ているんだと思うんですね。
学生が読むといい本として挙げられるのは、トーマス・シェリング(Thomas C. Schelling, 1921-)の『Micromotives and Macrobehavior』です。シェリングは、2005年にノーベル経済学賞を受賞した経済学者で、新しい版には、その受賞スピーチも収められています。マクロな結果は、必ずしも個人の考えていることに対応しないんだよということを、いろいろとわかりやすく書いてある、すごくよい本だと思います。
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Thomas C. Schelling
W W Norton & Co Inc; Rev Ed版 2006年10月 ISBN-13: 978-0393329469 |