file 02:虫の脳力に学ぶ応用分野

昆虫は、何キロ離れていてもオスがメスを匂いで探します。それがあんなに小さな脳で実現されているということは、もしそのしくみを作ることができれば、僕らの生活にすごく役立つことが期待できるわけですね。たとえば被災地で生き埋めになったり行方不明になった人がいても、現状の装置ではなかなか探すことができません。今のところ犬が活躍していますが、そんなところにも昆虫の能力が応用できる可能性があります。

それから、かなり注目されるのが、昆虫の能力を生かした匂いセンサです。昆虫は優れた鼻をもっていますが、そのしくみが解明され、昆虫の鼻を遺伝操作技術によって再現できるようになってきました。本来なら匂いに反応しない細胞に、昆虫の匂いセンサの遺伝子を導入することで、その細胞を「センサ細胞」に変身させることができるようになり、さらに、匂いに反応して、ピカッと光るようしたわけです。現在、さまざまな匂いに反応できる細胞を作っています。こういう細胞を小さなチップにいれ、匂いセンサをつくることをはじめています。

また、たとえばこれからのクルマとの付き合い方として、緊急事態には瞬時に昆虫の障害物回避能力を活かした操縦に切り替わるようなしくみを入れたらどうか、といった提案もしています。運転者は、自分でも知らないうちに、F1ドライバーのように危険回避していた……といった感じですね。そうすることで、ドライバーは、運転をより快適に楽しくできるわけで、ドライビングプレジャーには重要な考え方だと思います。また、このような技術は、CGによるカースタント・シーンの制作や、ゲームのプログラムなどにも応用できそうですね。

昆虫は、僕らが想像もしないような能力を数多く持ち、ヒトよりもはるか昔から地球で生活し、環境の変化に耐え、現在に至っています。なんと言っても地球に生息する生物の7割以上が昆虫で、いたるところで生活し、さまざまな問題を解決しているわけです。環境の変化に適応する、僕らの想像もしないような方法やしくみを持っているでしょうから、しかもおそらくは、簡単な方法で。昆虫の能力にはたくさんの学ぶべきことがあると思いますね。今後、さまざまな応用分野へとすそ野をさらに急速に広げていくと思います。