file 01:2つのコンゴの国境事情

アフリカには、変な国境がいっぱいあります。直線の国境も多いのですが、これは北緯何度線というふうに機械的に引かれたものだからですね。アフリカには2つコンゴと名がつく国があります。アフリカ大陸の中央に巨大なコンゴ民主共和国(首都キンシャサ)があり、大陸の西側で海に流れ出るコンゴ川に沿って、国土が伸びています。その西側にある小さめの国が、コンゴ共和国(首都ブラザヴィル)です。

2つのコンゴの国境はずっと川なんです。コンゴ川は場所によっては幅10数キロメートルの大河なのですが、対岸は目視することができます。川沿いに住む人々は、ここに国境が引かれる遙か以前から、丸木船でこの川を渡って、交易をしてきました。それは今日も変わっていません。丸木船で渡るときには、当然ですが、ビザをいちいち取ったりしません。キンシャサとブラザヴィルはコンゴ川を挟んで向かい合っていますが、二つの都市の間にはもちろん大きな船も運航されていて、きちんとパスポートの手続きをして出入国できるようになっています。これを利用するのは、外国人や富裕層など一部の人々ですが。

小さなコンゴ共和国は、以前フランス植民地だったため、現地の通貨価値がユーロ(かつてはフランスフラン)に対して固定レートで連動しています。一方、大きなコンゴの通貨にはそうした連動先はありません。そのため、特に私がブラザヴィルにいた頃は、二つの国の通貨価値が著しく違いました。キンシャサで仕入れたものを川向こうのブラザヴィルへ持っていくと、高く売れる。コンゴ川に引かれた国境線は、ヨーロッパ人がベルリン会議でアフリカを植民地分割する時に勝手に引いたものですが、いったん引かれると国境線がいろんな意味を持つようになります。自由に移動できるのに、別の経済圏になるということもその1つです。

国境には経済的な効果だけでなく、政治的な影響もあります。サハラ砂漠に引かれている国境線も、現場に行けば、砂漠が広がっているだけで特に何もありません。けれども引かれたことが重要な意味を持ってくることもあって、たとえば今サハラ砂漠でアルカイダ系のテロが起こっていますが、その多くが国境付近で起こっています。相対的に取り締まりが緩い国に武装集団が拠点を築き、厳しい国の国境近辺を襲撃して、また自分たちの拠点に戻るという行動をとるからなんですね。マリやリビアは前者、アルジェリアは後者です。2013年1月にアルジェリアで天然ガス精製プラント襲撃事件がおき、日本人も犠牲になりましたが、これもリビアとの国境付近で起こっています。