file 01:ヒトならではの慢性化

私たちの実験は、ほとんど何も起こらないんですね。実験が下手だからではなくて、むしろ実験がちゃんとできているからこそ、変化なし、変化なし、変化なし……。そして時々何かが出るといった具合です。このように研究室の実験のレベルを維持しておいて、そのテクニックを使っていろんな新しいもの調べていきます。ある分子を研究対象とした場合、その分子を遺伝的に持たない「ノックアウトマウス」を作って調べる方法がありますが、このマウスができるまでにも数年はかかります。

しかし自己免疫の場合、同じ分子があり、メカニズムも共通というものもある反面、マウスヒトとで違うところもあるんですね。やはりヒトのほうが複雑で、プロセスが圧倒的に長い。マウスの寿命は2年程度なので、特にヒトの「慢性化」という現象については、これをどうやって元通りにするかを調べるための動物モデルがなかなか見つかりません。花粉症にしてもぜんそくにしても、薬で治らなかったり、問題が起こりやすかったりするのは「慢性化」した疾患です。最初の免疫反応にいろんなものが付随してきて、さらにそこに感染が起こったり……と、症状がどんどん複雑になってきます。

しかしながら免疫にかかわる分子を、遺伝子の突然変異などでまったく持っていない場合には、生命は生まれてきません。したがって生存に不可欠な分子であることは、すでにわかっています。