マンガンという原子を見ると、普通は直交する3方向へ6本の結合手が出ている構造をした金属です。これに水分子が6つついた構造は安定なので、すぐにつくることができます。そこでマンガンをたくさん含んだようなクラスター構造でPSⅡの水分解触媒ができないか、という研究には長い歴史が、既にあります。ところが……それがなかなか、成功には至っていないんですね。
現在、人工光合成研究センターで当面の目標としている開発課題のひとつは、水素発生です。水ではなくバイオ起源の物質で人工光合成の材料をつくろうという目標のほかに、水素発生触媒のさらなる性能向上を狙って、マンガン以外のもっと活性のある金属を使って、水素発生触媒の開発を進めています。
人工光合成で水以外の物質で水素源となる物質を「犠牲試薬」といいます。いま話題のバイオマスもそのような犠牲試薬のひとつです。自然界の光合成は、地球上にほとんど無尽蔵といってもいい水を使って行われます。そしてCO2から有機物をつくり、有機物が燃焼すると水とCO2ができ……というように循環します。これに対してバイオマスでは、準備した材料を使えば水素がつくられるけれども、その材料はシステム外からその都度新たに供給しなければなりません。「犠牲試薬」はこのように循環しないため、課題の中間段階として進め、最終的には、CO2も水も循環可能なシステムを目指して取り組んでいます。