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可能性を照らす道Ⅲ

地球の内部はどう活動しているか。

海洋研究開発機構
宮腰剛広 主任研究員

地球太陽、そして宇宙について、人類はどのように知識を拡げていくのだろうか? 科学技術が発達し、多くの人工衛星が飛ばせるようになっても、私たちの暮らしの足下にある「地球内部」は、人類が直接探索することが極めて困難な場所のひとつだ。地球磁場は全体として南極付近と北極付近を極とした「大きな棒磁石のようなもの」と言われるが、その内部では人間の一生とは比較にならない長いタイムスパンのダイナミクスが生起している。これを数値シミュレーションによって明らかにしていこうという、独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)地球深部ダイナミクス研究分野 宮腰剛広主任研究員にお話をうかがった。

磁気乱流を解くダイナモ・シミュレーション

地球の半径はおよそ6,300キロメートル、ちょうど卵の黄身・白身・殻のように、中心部にあるコア)・マントル地殻という大きく3つの層から成っています。核は鉄でできており、そのうち外核では鉄が約4,000〜6,000度の高温で、どろどろに溶けた状態になっているんですね。この電気を通す鉄が、地球の内部で対流運動を起こすことによって磁場をつくっている、これを地球ダイナモ作用といいます。このような磁場は、地球の歴史の中で、少なくとも数十億年は維持されてきたと考えられています。

ところで今「どろどろに溶けた」と言いましたが、実はこの鉄、むしろ「さらさら」の状態にあります。ちょうど水ぐらいの粘性率しかなく、これが厚さ約2,200キロもの巨大な球殻を埋め尽くしているんです。そして、地球の自転によって生じる強い「コリオリの力」の影響を受け、外核内は極めて小さな流れのからなる乱流状態になっています。粘性力が小さくコリオリの力が大きいため、その比を示す「エクマン数」が分子レベルで10の-15乗程度という極端な値を取ると考えられています。しかし、この値を用いると膨大な計算量になり現在のスーパーコンピュータでは計算できません。しかしながら分子を「渦」というより大きな塊でとらえると、この値は10の-9乗程度というかなり緩和された値になるだろうという予測があります。2008年と2010年に、地球シミュレータを使って世界最高の解像度によりエクマン数を10の-7乗まで近付けたシミュレーションを行って、実際にどのような対流を起こしてどのように磁場が作られているのかを調べました。

地球磁場というと、あまり日常生活で意識することはありませんが、実は地球の表層環境にとっても重要な役割を果たしています。例えば太陽から地球へ向かって常に吹いている「太陽風」、それから遠くの宇宙からは「宇宙線」が飛んできます。これらはいずれも高エネルギーを持っており、生物にとって非常に有害なんですね。ですが地球内部でつくられる磁場が、地球を取り巻いてこれらをブロックし、地球の表層を保護しています。

核・マントル・表層を一体のものとしてとらえなければわからない

一方、核の外側にあるマントルも、対流運動をしています。マントルは岩石でできており、核に比べると電流をほとんど通しません。粘性率が高いので動きはゆっくりなのですが、粘度が場所によって100万倍以上も変化すると考えられており、核とは別の複雑さを持っています。また核の外側に位置するマントルは、その体積が地球という惑星全体に占める割合が核よりもずっと大きいため、その活動は惑星にとっていっそう重要です。地球ダイナモ作用を引き起こす外核の対流は、主にマントルの対流による核の冷却によって駆動されています。マントル対流は地球中心部の核の活動に対して強く影響していると共に、地球の表層における地震や火山、プレート運動などの諸現象に対しても深い関わりを持つものです。

また流れが遅いマントルは、流れが一回りするのにおよそ数億年かかる一方、乱流状態で流れの速い核では、一回りするのにたった数千年しかかかりません。まさしく10の5乗ほどもタイムスケールの違うものを、地球全体の規模で同時に計算するのは、現在のところ不可能です。しかしながら隣り合った核とマントルがどのような相互作用をしているかが、核の対流ひいては地球ダイナモを理解する上でも極めて重要な要因の一つであることは間違いありません。

核とマントルが連携していると見られる現象はいろいろあり、例えば白亜紀中期に見られる地球活動が挙げられます。地球の磁場は(周期は決まっていませんが)平均約20万年で極性が反転します。今は北極付近にS極があって、南極付近にN極がありますが、過去にはこれが逆だった時期が、何度もあったということになりますね。反転に要する時間は数千年と比較的短く、その間、地表にどんな影響を与えるかはよくわかっていません。ところで白亜紀(約1億4,500万年前〜6,600万年前)においては約4,000万年もの長い間、磁場の反転が起こらなかった時期があったことが知られています。その時代、地上の気候は非常に温暖で、火山活動が活発であり、マントル対流も活発だった……と、他の時代と比べて特異な現象が揃っています。マントルの活動が地磁気を安定にし、かつ表層を温暖にしたのではないかと考えられていますが、それぞれの層がどのような相互作用をし、なぜこのようになっていたのかはわかっていません。このような問題にアタックするには、どうしても核・マントル・表層の活動を一体のものとして捉えなければならない。惑星の活動性や進化をより深く理解するため、この数年は核とともにマントルの研究にも取り組んでいます。

核の活動と地表の気候はつながっている

ところで、地球ダイナモがつくり出す磁場は一定ではなく、実は揺らぎがあるんです。例えば数万年から10万年程度のスケールで、数十から50%も変動しており、大きさは最大で約3倍も変化しています。ところで周囲の惑星などからの影響により、地球の自転軸の傾きは周期的にごく僅かに変動しています。また地球の公転軌道にも同様にごく僅かな周期的な変動があり、さらに自転軸には歳差運動(首振り運動)も生じています。

これらの変動が生じると、太陽光の当たり方、つまり地球が受ける日射量が変わります。1920〜1930年代に、セルビアの地球物理学者 ミルティン・ミランコビッチ(Milutin Milanković)が、日射量が変動する周期を算出して、日射量が少ないときは氷床が拡大して氷期、多いときは間氷期になるのではないかということを示唆しました。すると氷期には、極域に氷床が成長して水の質量が集中することにより、角運動量の保存から自転速度が速くなり、一方間氷期にはそのような質量分布の偏りがあまりないため自転が遅くなるのではないか、といったことが考えられるわけです。

地球の核の対流運動は、自転速度に大きな影響を受けています。そこで氷期と間氷期の自転速度の違いが、核の対流に影響し、ひいては地球磁場に影響するのではないかというのが、浜野洋三先生(海洋研究開発機構)が提唱された説なのですが、これまで具体的には明らかにされていませんでした。2013年、われわれはこれをシミュレーションによって示し、その論文がフィジカルレビューレターズ誌に掲載されました。数万年というスケールの現象ですが、地球の表層の気候変動と地球の中心にある核の活動が、実はリンクしているという可能性を示唆できたんですね。