file 03:マンモス研究所をイメージすると?

2008年、僕らは16年間冷凍保存されていたマウスの凍結死体からクローンマウスを再生させたのですが、より長期にわたる、何万年も凍結されていた生物の組織はないか? と考えると、一番手に入りそうな材料が、マンモスなんですね。ほんとうは一万年前のネズミが手に入ったら一番いいんですけれども(笑)。

というのも、クローンの技術は、すべての動物種でそれぞれ独自の方法を開発しなければならないんです。僕が取り組んでいるのはマウスですが、たとえばこれより二回りくらい大きいラットではまたぜんぜん違うというふうに、近い種であっても方法はまったく違ってくるんですね。

マンモスを進化から見ると、アジアゾウとアフリカゾウの距離よりも、マンモスとアジアゾウのほうが近いことがわかっています。凍結細胞からクローンを作るのは、生きた細胞から作るよりも難しいので、ここはまずアジアゾウのクローンに成功してから、やっとマンモスがスタートできる流れになるでしょう。ゾウ、マンモスという動物種に最適な方法をまず確立しなければなりません。

ところがゾウは自然の状態からみても出産率が低いし、手に入れることができる卵子の数が極めて限られています。マウスや牛では、毎日多くの卵子が入手可能であり、それを使って世界中の多くの研究者がクローンに挑戦していることを考えると、まずゾウが足りないことが予想されます。またマウスは「はつかねずみ」というくらいで妊娠期間は約20日ですが、ゾウの妊娠期間は約3年もあり、3年に1度というサイクルで実験していかなければなりません。また卵子を増やすためのホルモンの研究や、卵子を子宮へ戻すためにどうやってあの大きなゾウに手術するかなど、準備しなければならない基礎研究がまだまだたくさんあるように思いますね。

でももし世界の大金持ちの誰かが、ゾウをざっと1,000頭は飼えるような研究所を作って、そこに本気で集中して取り組む研究者がいれば……復活はできると考えています。