file 03:日本の展覧会史

展覧会史は、僕が関心を持っているテーマのひとつなんです。特に日本の展覧会の歴史は、それまで似たような習慣がまったくないところで急に始められたために、非常に特殊だと考えています。それまでの日本には、書画会と呼ばれるものなどがありましたが、大きな場所に作品を集めてきてみんなでワイワイ見るというイベント形態そのものが、そもそも日本人にとってはあまり馴染みのあることではありませんでした。

それが明治の40年間を通じて、当時はまだ専用の建物もなかったに拘わらず、世の中が「展覧会というのはおもしろいものだ」ということになっていきます。明治40年に文部省が美術展覧会を始めたところ─これが現在の日展になるわけですが─ものすごく人が集まるようになりました。ひとつには、そのような「見る」制度が確立したとみることもできますが、それだけではなくて、見ることによって評価するとか、あるいは出品した画家たちの入落選のドラマみたいなものも一緒になって盛り上がっていくんです。

それは多くの人が見ていて、注目を集めているからこそ起こり得る、美術を取り巻く環境の変化だと言えます。そして作品そのものよりも、それに付随した盛り上がりなどが重視されて、明治の半ばぐらいから、それらを含めなければ作品の評価も、作家の仕事もわからないといったことが起こってきます。

今までの美術論はどうしても作家中心、作品中心であって、作品がどのように見られていたのかということについては、少し弱い部分がある。そこが僕の大きな関心事になっているんですね。