file 01:なぜ水月湖なのか?

今回の掘削は、2006年に実現できなかったことをやりたいという研究の目的以外に、教育普及に役立つきれいな試料を採取するというのも大きな目標になっています。

そこで僕らは、いま円柱状に採取される土から、長い板状のサンプルを取るという難易度の高い作業を行っているんです。板が取れたら、これに特殊な加工を施すことが出来る、世界でひとつしかない会社に送ります。その会社はドイツのポツダムにあり、そこで樹脂で固め、ガラス板に貼り付け、光を通すまで薄く薄く削り落として、バックライトで展示する計画です。

年稿が取れる湖の条件はいくつかありますが、ではなぜ水月湖なのか、それをどのように見つけたのかというと偶然が大きいですね。私の師匠は考古学者で、水月湖の隣りの三方湖の湖岸にある縄文時代の貝塚を研究しており、その遺跡の周辺環境調査として、湖底を掘って植物の化石の分析をされたんです。その際に隣の湖でも試しに掘ってみたら、きれいな土が見つかった。本格的に年稿の研究に取り組み始めたのは1998年ごろからですが、名古屋大学の北川浩之教授は、当時から水月湖の年稿の価値を見抜いていました。

水月湖は地元の関心も高く、年稿をイメージしたお菓子なども販売されています。年稿の展示の他、残りの土も福井県が保管し、研究を目的とした要請に応じて、審査の上、提供することになっています。