file 02:偉大なるグリーンランド

水月湖の年稿とはどういうものかを説明するのに、僕はよく「メートル源基みたいなもの」というふうに例に挙げています。ものの長さにはメートル源基というものがあって、世界中で共有することによって長さの比較が非常に簡単になる。これと同じように水月湖が年代目盛りを支えていることによって、たとえば気候変動の時間差の比較が、容易に出来るようになります。年稿の一番の価値は、そこにあるんですね。これで時間軸のスタンダードが出来たので、次は空間に取りかかるのがロジカルな流れであり、世界の研究者もたぶんそう思っていると思います。これを専門用語で「時空間構造(spatio-temporal structure)」といいます。

過去の気候変動の研究というと、とりあえずスターとして思い浮かぶのはグリーンランドの氷床なんです。それは20年にわたる偉大なる研究であり、この分野の研究者の誰もが認めるところでしょう。しかしグリーンランドの氷床は要するに単なる氷なので、その精密な年代軸を他の地点と対比しようとしても、放射性炭素年代が測れないという問題があります。またこの従来の知識の体系と、私たちがみつけた水月湖のデータを比較すると、対比がとれないところがあり、今後は連携して研究を進めていかなければなりません。