1年の時から就活に不安を感じている学生にアドバイスを!

私はなんでもルールとかマニュアルに頼る考えが嫌いです。そういった空気が勝手に作られるこの世の中も嫌いで、だからといって自分は違うことをやらなくちゃいかんという空気はもっと嫌いなんです。(笑) でも、例えば就職できないかもしれないという不安が生まれるのは、「有名企業に就職しないといけない」と思っているからではないでしょうか?─意外とこういう考えが、自分のチャンスをなくすことがあると思っています。あるアメリカの大学なんて面白いですよ。「大学院に行くやつなんて馬鹿である。大学中退するくらいが丁度いい。その代わりに会社を作れ」と、そのくらい元気があるやつが優秀なんだって定義している大学もあるくらいで、見る角度を変えれば、こうも人の評価は変わるもんだと痛感させられます。給料も大事ですし、有名企業には安心感もあります。しかし、いろいろな期待や不安な要素がある中で、本当のところどこへ行ったら一番楽しいか、幸せになれるかなんて誰にも分からないと思います。むしろ、価値観の多様なこの時代の中で、どのようにして自分を捉えるかが、皆さんの世代に求められているんじゃないかと思っています。

私の場合、あまり先を見過ぎず、今を楽しむようにしてきました。だって死ぬときまで考え出すと、これからの人生が楽しくなくなりますからね。大学4年間を何も考えないでボーっと暮らすことも、悪くないと思っています。自分の将来に対して向き合う期間が4年もあるのは本当に有難いことですよね。私が一緒に仕事をしている人に75歳の方がいるんですが、ものすごく頭がいいんです。75歳でもまったく流暢に話されていて、ちゃんと働きたいと思っている方は頭の回転が非常に早く、そして見た目も凄く若いんです。そう思うと、皆さんが18〜21歳までの間だけ不安な歩みをしたところで、22〜75歳まで働くことを考えたら、たったその4年間は、長く働いている人生の中で、ほんの一瞬だと思えてくると思います。紆余曲折があるのが人生だと思えば、さらに数年くらい寄り道がある人生の方が、全然楽しいかもしれませんね。(笑)

あらゆることに何か意味を持たせなくちゃいけないっていうのは、少しやりすぎているような気がします。また、1つも失敗が無く生きていくのが、本当に幸せなのか?という疑問もありますね。失敗する機会がないと、私はこれが好きだとか、これが嫌いだとかを知るチャンスも減ります。どちらかというと失敗をしまくった方がいいと思っています。人生には誰しも迷う時が絶対に来ます。成功の道だけを歩んでいると、これまでどのようにして成功してきたかがわからなくなり、一番大事な時に失敗する可能性が高くなります。でも失敗を多くしていると「ああすれば良かった。こうすれば良かった」と学ぶことが多く、ここ一番の大事な時に力を発揮しやすいもんです。それに皆さんが経験する大学生時代での失敗は、就職して部下を持つような立場になってからの失敗に比べれば、随分影響は小さいと思います。

どんなに今幸せな人だって、最終的に死んでしまえば、皆同じですよね。先の事ばかり考え過ぎず、回り道をしながら、長い人生を歩んでみても良いのではないでしょうか。

文:町田雄太(東京理科大学4年)

井口 聖准教授(国立天文台)プロフィール
兵庫県生まれ。専門は電波天文学。電気通信大学大学院電気通信学研究科で博士号取得後、国立天文台 COE研究員になる。国立天文台 助教を経て、現在、国立天文台 准教授(総合研究大学院大学 准教授 併任)。また2001年1月より国際共同プロジェクト「アルマ望遠鏡計画」に参加し、2008年5月からは東アジア・アルマ・プロジェクトマネージャとしてアルマ計画を推進。さらに、現在、国立天文台電波研究部主任も兼務し、国立天文台電波専門委員会委員長でもある。