北原和夫教授(東京理科大学)インタビュー

大学生活は多くの人にとって社会人になる前の最後の時期です。
将来像や人生の目標を持つ大学生がいる一方で、自分がやりたいことや将来像が見えずに「モヤモヤ」を抱えた学生もいます。そこで学生団体DANNAmethodに所属する学生たちが、この「モヤモヤ」に基づいた質問をresearchmapの研究者の方々にぶつけ、彼らの大学時代の過ごし方を手本に、「モヤモヤ」解決の糸口を探ります。

ご自身の大学・大学院生活を一言で表わすと、どのような時期でしたか?

やっぱり「いろんな人や物に出会った」という時期だと思いますね。
今までに自分が考えたことのなかった考え方に大学で初めて出会って、非常に感動したというのがいくつかあります。まず僕が大学に入って感動したのが、ポテンシャルという概念。高校の時に習うベクトルは「X方向を表す変数」、「Y方向を表す変数」、「Z方向を表す変数」という3つの変数の組として考えるけれど、ポテンシャルという考え方だと、3つの変数を考える代わりに1つの関数を考えることで済むということです。その関数の傾きから、3つのベクトルが出てくるんです。モノの見方を変えることによって記述の仕方が非常にシンプルになるということ。それはもう衝撃的でしたね!後から友達に聞いてみるとあんまり感動していなかったみたいだけど(笑)僕自身はそういうことに割合感動する方だったのかなぁと思います。他にも感動した大学の授業があって、細かな話からではなく、大きな概念の相対論の話からいきなり入っていく力学の授業なんか、とても面白かったですね〜!

それから、当時入っていた東大の合唱団での出会いも面白かったです。合唱団には音楽が好きという理由で入ったんですが、それまで僕は音楽に無関係で大学に入って初めてバッハの音楽を聴いたんです。音楽の深さにもうびっくり仰天しましたよ。実はバッハとの出会いは、当時のドイツ語の先生が何かにつけてバッハというものだから、研究室に行って聴かせてもらったというところにあるんですが。それからずっと音楽に病みつきになって、大学時代は毎週日曜日には合唱団に通っていましたね。最初は楽譜も読めなかったので、隣の人が歌っているのを丸のみにしていましたが(笑)。その合唱団は面白い合唱団でね、大曲を年に1回しか歌わないんです。小さな曲では飽き足らずに「何かでかいのをボンっとやろう」というような人たちが集まっていたんですよ。僕が最初に歌った演奏会のときは、N響の人たちを呼んで一緒にやったほどで、勢いがある合唱団で非常に面白かったですね。中でもそこの指揮者の方との出会いが僕にとってはとても大きかったんです。その方はとても謙虚な方で、1回も欠かさずに毎週日曜日に練習に来てくれていて、第二次大戦直後の合唱団発足からずっとライフワークみたいに合唱団をやってくれていました。だから、彼を慕う学生はとても多かったです。その指揮者の方が亡くなられた時に、奥様から資料を少し頂いて調べたら、実はすごく偉い方だったんですよ。よく考えると、N響を呼べるくらいの人だったわけですから。それでも、他の世間的名声欲を全部捨てて毎週コツコツと学生合唱団のために打ち込んでくれていましたね。僕はコツコツやるという態度は大学時代に彼から学んだように思います。

僕の大学生活はとにかく「行ってみっか」というふうに割と行きあたりばったりだったけど、その都度何かしら感動するものがあって良かったです。今まで予想だにしなかった面白いことがどんと出てきましたね。だから、退屈ってことはあまりなくて忙しすぎたように感じます(笑)