大学・大学院生活で得た一番の財産ってなんですか?

友達、仲間を得たことが一番の財産ですね。
アメリカで研究員をやっていた頃、研究員の居室が大部屋で、僕らは「stable」と呼んでいたんです。これは英語で「馬屋」という意味なんですが、当時は所属の研究室別に部屋を分けるのではなく、僕ら研究員はみんなstableに入れられて、いろんな分野の仲間と日常的に喋っていました。面白かったですよ。今、仲間たちはみんな世界各国で教授になっているので、海外を訪れては、御馳走になって旧知を温めたりしていますね。本当にいろんな文化のバックグラウンドを持った人たちと一緒に過ごせたというのが僕にとっては大きいです。

その中でも化学を専攻している、ルーマニア出身の男がいまして、彼との出会いが面白かったですよ。面白いと同時に辛かった(笑)。彼は僕と何かにつけて正反対なんです。彼はものすごく押しが強いけど僕はあんまりそうでもなく、彼は化学で僕は物理学でしょ? だから発想が違うわけですよ。それから最大の違いは政治的な思想の違いで、彼は反共なんですよね。だから「日本は核武装してやっていくべきだ」とか僕にいろいろ言うわけです。でも僕は核武装絶対反対、平和主義ですからね。研究でのディスカッションが終わった後も、お茶を飲みながらこんな話をガンガンやるので本当にくたびれました。でも僕は、彼との出会いは非常に自分にとって良かったと思っています。彼はたとえお互いの立場は違っても、僕を良いヤツだと評価してくれていたんですよ。ある時、彼の友達が僕の所に来て「お前平和主義者なんだってね。あいつが言いふらしているよ」というわけです。彼は「カズオっていうのはこういう男だ。いい男だからお前もつきあったらいいよ。」とかってやっていたわけですね。そこがアメリカ社会の良いところで「違いは違い。違っていても良いヤツだったら、良いヤツだ」と周りに言い広めてくれるというところがあるんです。主義・主張は違っていても友達になれるということを知ったのは、アメリカでの研究員時代に彼と出会い、今まで35年間続いている彼と付き合いのお陰ですね。