柳川範之准教授(東京大学)インタビュー

大学生活は多くの人にとって社会人になる前の最後の時期です。
将来像や人生の目標を持つ大学生がいる一方で、自分がやりたいことや将来像が見えずに「モヤモヤ」を抱えた学生もいます。そこで学生団体DANNAmethodに所属する学生たちが、この「モヤモヤ」に基づいた質問をresearchmapの研究者の方々にぶつけ、彼らの大学時代の過ごし方を手本に、「モヤモヤ」解決の糸口を探ります。

どのような学生時代を過ごされていたのですか?

僕は割と変わったルートを歩んできました。父親の海外勤務が多く、小学校4年生まで日本の学校にいて、その後シンガポールの日本人学校に中学1年生まで通い、日本に帰ってきて日本の中学を卒業しました。その後、普通だと高校に行くのですが、僕は学校には通わずブラジルで過ごしていました。当時は公認会計士になろうと思っていたので、大学は日本に帰って来て大学入学資格の検定試験を受けて、慶應義塾大学の通信過程に入りシンガポールにいながら通信教育を受けていました。その頃は、日本の公認会計試験とアメリカの会計試験をとって、国際的なコンサルティング業務をできるといいなと考えていたんです。通信の授業はぽんと送られてきたテキストを読んで、課題レポートを書いて、試験という感じだったので、どうやって勉強したらいいのか途方に暮れてしまい、最初はすごく苦労しましたね。これではいけないと思い、どこが大事かを考えたり、出回っていた過去の試験の出題を見たりして、無味乾燥なテキストからポイントを自分なりに探し出していました。それはすごく今の仕事に役に立っています。僕らが今読む本や論文には要点が書かれていないわけで、自分なりに大事なポイントを選び出してまとめていく作業をしてアウトプットをしていかなくてはなりません。とにかく力技で噛み砕いて力技で消化して自分のものにする、というような力を養ったのはそのころですね。

通信制にも通学制と同じように、休暇期間を利用した対面式の講義を受ける時間が指定されています。普段僕はシンガポールで遊びながら勉強していたんですが、仕事をしながら地方で勉強している人も通信制にはたくさんいるんですね。指定された時間に授業を受けるために、仕事の休暇を全部使ってわざわざ東京に来て、クーラーもない部屋で、団扇とタオルとポカリスエット片手に授業を受けていました。その人たちの意欲と熱気はすごかったですよ。彼らは勉強すべきことがわかっていて、モチベーションも高かったです。そのような人たちと一緒に勉強できるという珍しい経験ができたのは良かったと思います。

慶應の通信教育で指導教官になって下さった先生からは勉強面でいろいろとアドバイスをもらいました。僕は肩書きとしては中卒としてきていて、大学教授で経済を教えている人というのは初めて出会った人だったので、こんなふうに大学の教授をやるのもいいなと思いました。そんなことを漠然と考えながら、大学院に行きたいと思い始めて、最終的に経済学者を目指して勉強していくという方向転換をしました。東大を受けるなら東大の授業を受けた方がいいという話を東大の大学院生から聞き、東京大学の授業に潜って行ったんですが、その時にずうずうしくも僕はその授業の教授に質問に行ったんです!ちょっと難しめの普通の学部生は聞かないようなことを聞いたら、「君は何年生なの?どこのゼミなの?」と聞かれて、嘘をつくわけにもいかないので、正直に「実は潜りできました」と答えました。そしたら教授は僕が東大生でもないのに「うちのゼミに来ないか?」と言ってくれたので、その教授のゼミに行くようになりました。僕にとってはインパクトの大きい一言でしたね。